【宝塚】2015年・月組「舞音/GOLDEN JAZZ」感想 ベトナム風宝塚の美しい世界とひたすら楽しいショー

ベトナム風宝塚の美しい世界とひたすら楽しいショー

2015年、月組「舞音-MANON-」「GOLDEN JAZZ」DVDで観ました。※お名前の敬称は制作スタッフ・生徒問わず統一しています。

 
 
「舞音-MANON-」について
 
アベ・プレヴォ作の"マノン・レスコー"を原作とした作品ですが、この2015年の舞音では舞台を20世紀初頭のフランス領インドシナに変えて作られています。
 
宝塚でマノンといえば、2001年に花組、2021年に星組で上演された「マノン」の方を思い浮かべる方も多いのかもしれません。
こちらのマノンも、アベ・プレヴォのマノン・レスコーを原作としていますが、2001年(初演)、2021年(再演)のバージョンは舞台が19世紀スペインとなっています。
 
元々の原作の舞台はフランスとアメリカ、2001年と2021年の宝塚版はスペイン、今回私が観た2015年版はフランス領インドシナだった時の現在のベトナム、舞台となる場所がそれぞれ違ってるので紛らわしいです(笑)
 
でも、アベ・プレヴォのマノン・レスコーは、ファム・ファタール(男たちを破滅させる女)を描いた文学作品としては最初のものと言われているように、宝塚のマノン(2001年、2021年)、舞音(2015年)のどちらの作品も破滅的な恋愛を描いているという点は共通しています。
 
 
本題の2015年の月組「舞音」の感想なのですが…
 
正直に言ってしまうと、私は恋愛ドロドロ物はちょっと苦手なんですよね…(笑)
別に宝塚の作品に限らずなんですが、私の好きな物語は恋愛要素少なめの人間ドラマ中心のものがほとんどです。
なのでトップスターの龍真咲さんが、トップ娘役の愛希れいかさん演じるマノンの魅力にどっぷりハマり、エリート人生だった人生も投げ捨てて2人だけの世界に堕ちていく感じとかも、共感とか、憧れとか、そんな感じもなく(笑)
 
でもこういう破滅型恋愛物っていうのは、自分の人生に置き換えたり、現実的な目で見るものではなくて、非現実的なものを味わうための要素的なものなんじゃないかな、と思ったりします。例えばホラー映画が好きな人とかは、その非現実感が好きだったりするんじゃないかと思うし。
そもそも宝塚の世界っていうのも、女性が男性を演じている時点で非現実的だったり、独特なメイクだったり、現実ではありえないようなキラキラお衣装だったり非現実感満載で、でもそれを楽しむ面も多いように思います。
だから現実ではあまりなさそうに思えるこの手の恋愛物も宝塚では割と取り上げられている気がするし、逆に言えば宝塚と親和性の高いものなのかもしれません。
 
まぁそんなこと言いつつも、私は恋愛話にはあまりのめり込めなかったので、この作品で何を注目して見ていたかというと、それは…
フランス領インドシナの舞台をイメージした、アジアンテイストの舞台セット、衣装、音楽の素敵さです!(笑)
 
この作品を担当された演出家の植田景子さんは、ご自身の思われる美しい世界のイメージが明確にある方なのだろうなと思います。
そして今回は、作曲をニューヨーク在住の韓国人作曲家Joy Sonさん、装置家の松井るみさん、衣装家の前田文子さん、振付はハンブルクバレエ出身の大石裕香さんという、各界で活躍されている女性の外部スタッフさんが創り上げられました。
何となく、いつもの宝塚の舞台とは違う気がしたのは、宝塚専属のスタッフさん以外の、外部スタッフさんが多く携わられていたからなのかなと思います。
 
主人公2人の恋愛にはあまり興味はなくても(笑)とにかく舞台そのものの世界観にかなり気合が入ってるので、舞台上の細かな世界観を堪能してたら1時間半経ってた感じでした。
 
 
龍真咲さん、愛希れいかさんの感想
 
龍さん、フランス貴族の血を引く海軍将校役ということでしたが、お衣装もとてもよくお似合いだったし、立ち姿なんかも素敵でした。
龍さんは本当に華やかで整った顔立ちをされてるので、エリート将校の華やかさだとか、そういうものが、パッと見ただけで分かるような気がします。一目見ただけで、この人は特別な人なんだ、と感じてしまうような。
なのでマノンと出会い、破滅していく様子は、ちょっと残念というか…
でも自分だけを必要とし、愛を求めている人を受け入れる、優しさみたいなものが龍さん演じるシャルルにあったのではないかと思います。育ちの良さを感じさせるがゆえに、このシャルル自身もこんなに破滅するなんて思ってなかったような気がします。
そんな王子様的要素が感じられる龍さん演じるシャルルでした。
 
マノン演じる愛希れいかさんについては、さすが愛希さんだな、という感じでした。
魔性の女の強い感じがよく出てました。
宝塚の作品は役柄にもよりますが、髪を明るく染められていることが割と多いです。でもこの作品の愛希さんは黒髪で、あまり見ないせいかミステリアスな美女という感じで、新鮮で良かったなと思いました。
 
ただ一つ……龍さんと愛希さんの恋愛のクライマックス、白いシーツのベッドで愛を語らう(笑)場面、愛希さんはとても色っぽいお衣装を着られてて、それはそれは色気のあるシーンなんですが。
何というか…私はこの龍さんと愛希さんはあまり色気を売りにするようなタイプのタカラジェンヌさんではないような気がしていて。
どちからというと元気で爽やかなイメージのお二人です。
なのでこの場面は何だか見てはいけないようなものを見ているような、そんなむずがゆい感じがしたのもまた、正直なところなのでした…
 
 
「GOLDEN JAZZ」について
 
このショーはとにかくひたすら楽しいです(笑)
ジャズって、すごく幅の広いものではないかと私は思ってるんですが、このショーはとにかく楽しい、の部分のジャズがテーマだと思いました。
舞台の色使いなんかも、おもちゃ箱をひっくり返したような感じの、ともすれば、ごちゃごちゃして見えるかもしれないギリギリのところを、上手く綺麗にまとめてありました。
ショーを担当された稲葉太地さんは、綺麗にまとめて作るのが上手い方なんですよね。ハズレがあまりないというか。
 
とにかく楽しいショーなんですが、一つだけ言いたいことが…それは愛希さん中心のアフロブラジリアンダンスの場面です…
この場面はジャズのルーツというか、そういうものを表現した場面だと思います。また、この場面を愛希さん中心の踊りにされたのは、愛希さんのカッコよさみたいなものを見せたかったのだと思いますが。
 
私は宝塚の魅力というのは、女性が男性の格好をして、その男性性を研究し、追求し、それを表現しようと挑戦(笑)しているところ、その歴史の積み重ねだとか受け継がれてきたものに、特別な価値があるんじゃないかと思ってます。
もちろん娘役さんは、この世の中ものとは思えない程の女性像を追求し、表現されているのだと思います。
でも女性が女性を演じるよりも、女性が男性のふりをするという挑戦(何度も言ってすみません笑)の方がやっぱり希少価値が高いと思うから、男役さんってスゴイ!!ってなるんだと思います。
トップスターは男役さんだし、トップスターの男役さんが一番目立つように、輝くようにどの作品も作られてます。
だからもし、娘役さん中心の場面を見るとしたら、私はこれ以上ないほど、この世のものではないほど素敵な、夢を見させてくれる女性を見たいなと思います。
 
でもこのダンスの場面、夢を見るというよりも…あまりにも地に足がつきすぎていて、現実に返ってしまいそうになる場面なんですよね。
演出の面ではかなりこだわりがあって作られたのだろうな、とは思うんですけど…
とにかく楽しいショーなので、ここの場面だけ違和感というか、どうにかならなかったのかな…という気はしました。
でも愛希さんだから、この場面が出来たんだろうなと思います。愛希れいかさんというのは、やっぱり特別な娘役さんだったんだろうな、と思います。
 
 
まとめ
2作品とも、宝塚の王道な作品ではないかもしれません。でも、いつもとは違う視点から宝塚を見ることができるかもしれない、そんな作品だったように思いました。